設計・施工だけでなく、生コンや二次製品業界も含めた大きな輪を―。広島工業大学教授でコンクリートの専門家として知られる十河茂幸氏が、今年3月に定年退職を迎えるのを機に「中国地区コンクリート関係者連絡会議(仮称) 」ともいうべき、コンクリート従事者の連絡組織の設立を目指している。大林組を退職後、広島に着任して約6年。技術支援活動などを通じて築いた産・学・官の人脈を生かし、コンクリート技術者としての恩返しを期す十河氏に、経緯や課題、目指すべき目標などについて聞いた。
(聞き手は本紙代表取締役社長・絹井正博)
―まず、連絡組織の設立を思い立った経緯を教えて下さい。
広島工大での6年間、学生を教える傍ら、中国地方整備局、防衛省、NEXCO、広島県などで技術面や入札関係での支援、さらに学生の就職活動を通じて様々な地元企業とお付き合いさせてもらい、充実した時間だった。
その中で感じたことは、コンクリートに携わる専門業種それぞれではまとまっているが、他業種間の連携が見えないこと。連携なくして合理的な仕事はできない。違う業種間で互いに理解しあえる場が作れないかと考えた。
―連携が見えないのは、なぜですか。
ひとつは、建設業が成熟したせいだと思う。昔はポンプも生コンもゼネコンがやっていたが、現在は合理化が進み、それぞれが専業者になり専門性が高くなった。ゼネコンはポンプや生コンのことが十分に分かっていないし、設計や生コン業者なども施工には詳しくない。分離発注の状況下ではある程度は仕方がないとはいえ、連携不足による問題はかなり前から起きている。
もうひとつは、地域特有の問題だ。1県だけならまとまりやすいが、広島は中国地方の中心。日建連やコンサルタント協会の中国支部があり、業種ごとに中心的な役割を担っている。それゆえ、異業種間のコミュニケーションは希薄だ。おそらく、時間的な余裕がないことも要因だと推察していている。
―具体的にどのような課題があるのでしょう。
例えば、新設構造物で耐久性の高いものを作るには、施工よりもまず設計が重要。そのため、私が幹事を担当した平成19年(2007年)制定の土木学会コンクリート標準示方書では、ひぴ割れや耐久性に関する特性値を設計図に明記し、必要な配合条件などの参考値を示すよう改訂した。しかし、一向に進んでいない。
理由は、設計者のコンクリート施工技術に関する知識不足と施工者の設計に関する知識不足、さらに「コンクリートのことはコンクリート屋に聞いて」と考えている技術者が少なくないこと。責任が伴うのでやりにくいということもあるだろう。
技術が多様化し、すべてのインフラに関わる技術(計画、設計、製造、施工、維持管理など)の一還の流れを説明できる技術者は、ほとんどいなくなってしまった。コンクリートに携わる設計技術者が施工のことを知らないのは、施工の技術者が設計を理解できないことと同じだ。
砕石業界からは、良い骨材を作っても高くて売れないという声を聞く。良い材料を使って高耐久のコンクリートにすれば、全体のコストを下げられることもあるはずだが、コスト優先で連携が乏しい現状ではその議論が成り立たない。発注者もお金を出すには理由付けが必要だ。連携することで、お金を出す正当な理由付けもできやすくなるのではないか。
また、維持管理においても同様のことが言える。構造物の施工を知らなければ補修材料の知識があっても仕事にならないし、補修材料と施工技術を知らなければ、適切な補修設計はできない。技術の交流こそが今後重要となる。
―その補修ですが、中国地方の現状はどうですか。
中国地方、特に広島は使用していた骨材の影響で、塩害とASRによる劣化が多いのが特徴。いかに延命化するかは、大きなテーマだ。国や自治体もようやく本腰を入れ始めており、いま一番進歩しているし、進歩しながら改めなければいけないのが補修。今後も絶対に減らないし、もっと仕事として成り立つようにする必要がある。
―どのような人に参加してもらい、どのような会を目指しますか。
考えているのは、新設、補修、材料、製品などコンクリートに関わる全ての分野。地元に明るい仲間に助言をもらいながら、色々な人にお願いする予定だが、意見がまとまらなくなるのは困るので、誰でも入れる会にはしない。各業界に精通したキーマンを絞り、その方々を中心に進めていくことになるだろう。
広島県、さらには中国地区で異業種交流の場を築くことで、連携強化と合理的なインフラ整備につながると考えている。
―設立はいつ頃ですか。
4月から時間ができるので、それから一年間程度を準備期間として考えている。早くて今週頃には何らかの形にできれば。当面の連絡先として、(一社)コンクリートメンテナンス協会(広島市中区東千田町2-3-26、電話082-641-0138)の事務所をお借りする予定だ。
―最後にコンクリート従事者の方々へのメッセージをお願いします。
私がお願いするよりも、趣旨に賛同して意欲的に参加してくれる方を募集したい。私は大学教授でなくなるが、大学にも協力してもらわなくてはできないし、官庁や各業界との連携は絶対に必要だ。コンクリートはインフラの基本でもあるし、これをきっかけにインフラ全体の話にもつなげていければ。