(4)ASRの劣化グレードと適用可能な補修工法との関係
ASRの劣化グレードと標準的な補修工法の関係を図2-44に示します.
潜伏期ではゲルが生成するものの,まだコンクリートにひび割れが発生していませんので,対策工への要求性能は外部からの水分浸入の抑制となります.その要求性能に適する工法は表面被覆工法または表面含浸工法となり,予防保全的な適用となります.
進展期になるとゲルの膨張によりコンクリート表面にひび割れが発生し始めます.この段階でのひび割れ状況はまだ比較的軽微ですので,ひび割れ注入工法と表面被覆工法や表面含浸工法などを組み合わせることによって水分の浸入を遮断し,以後のASR膨張の進行を抑制するという方針を採ることができます.ただし,この段階の構造物は残存膨張性が高い状況であると考えられますので,水分供給や日射などの環境条件によっては早期に再劣化を生じる場合も想定されます.よって,構造物の重要度や維持管理のし易さなどを考慮し,再劣化を許容しないような場合では予防保全的に内部圧入工法(亜硝酸リチウム)を適用し,以後の膨張を根本から抑制するという方針を採ることもできます.
加速期に入るとASR膨張の進行速度が最大となるため,ひび割れの幅,延長が増大し,構造物の耐久性能が急速に低下します.また,圧縮強度や弾性係数などの力学的性能も低下し始めますので,外観上のグレードが加速期にある構造物は,これ以上劣化を進行させないことが重要です.構造物の残存膨張性が既に低い場合では,ひび割れ注入工法と表面被覆工法の組み合わせによって水分の浸入を抑制するという方針を採ることができます.ただし,ASRの膨張性は非常に長期間に渡るため,加速期では依然として残存膨張性が高い状況であることがほとんどです.従って水分供給や日射などの環境条件によっては何度も再劣化を生じることも十分想定されます.そのような構造物に対しては内部圧入工法(亜硝酸リチウム)により以後の膨張を根本から抑制するという方針を採ることができます.また,構造物の形状によってはASR膨張拘束を目的とした巻き立て工法や接着工法を適用できる場合があります.
図2-44 ASRの劣化グレードと適用可能な補修工法との関係
劣化期になるまで放置すべきではありませんが,もし劣化期に至った場合では,コンクリートの劣化部・不良部の範囲も大きいため,補修規模も大規模となります.ただし,劣化期までくると,構造物の残存膨張性は既に収束していることが多いため,この段階では内部圧入工法のようなゲルの膨張抑制を対策方針として掲げる必要はなくなります.ただし,鉄筋破断や強度低下など,構造物の耐荷性能が低下している場合がありますので,それに対する適切な補強対策を講じる必要が出てくる場合もあります.
このように,ASRに対する補修工法を選定するにあたっては,現時点での構造物の状況がどの劣化過程にあるかを十分に見極め,さらに,将来的なASR膨張の進行性(残存膨張性の大小)を十分考慮したうえで適切な工法を選択することが重要です.