(4)中性化の劣化グレードと適用可能な補修工法との関係
中性化の劣化グレードと標準的な補修工法の関係を図2-27に示します.
潜伏期では中性化が進行するものの,まだ鉄筋腐食が始まっていませんので,対策工への要求性能は外部からの二酸化炭素の浸入抑制となります.その要求性能に適する工法は表面被覆工法または表面含浸工法となり,予防保全的な適用となります.
進展期になると鉄筋が腐食し始めます.ただし,まだひび割れ等の変状は生じていません.この場合は,表面被覆工法や表面含浸工法により二酸化炭素,水分,酸素の浸入を抑制し,以後の鉄筋腐食の進行を抑制するという方針が基本となります.ただし,重要構造物などで劣化の顕在化を許容しない場合には,この段階では断面修復工法(全断面修復)により中性化したコンクリートを除去したり,再アルカリ化工法によってコンクリートのアルカリ性を回復させたりすることで鉄筋腐食環境を改善することも検討すべきです.また,予防保全的に電気防食工法や内部圧入工法(亜硝酸リチウム)の適用を検討することもあります.
加速期前期に入ると既に鉄筋腐食の進行によってひび割れやコンクリートの浮き等が発生していますので,劣化因子の遮断や中性化領域の回復だけでは補修が不十分となります.ここでは鉄筋腐食の進行抑制を主たる要求性能と考えることが重要であり,電気防食工法や内部圧入工法(亜硝酸リチウム)などが適用できます.
また,コンクリートの浮きが生じている箇所を部分的に断面修復するだけでなく,かぶりコンクリートをすべてはつり取って中性化したコンクリートを除去しつつ鉄筋の防錆処理を行う全断面修復工法も適用できます.
図2-27 中性化の劣化グレードと適用可能な補修工法との関係
加速期後期は加速期前期の状態が進展した状態ですので,適用できる工法は加速期前期と同様と考えることができます.ただしこのグレードになると剛性等の力学的性能や第三者影響度に対する性能低下が懸念されますので,広範囲に脆弱化しているかぶりコンクリートを全て除去して断面修復する必要性が高まります.その際,断面修復工法を主工法とし,必要に応じて電気防食工法や内部圧入工法を併用するような場合もあります.
劣化期になるまで放置すべきではありませんが,もし劣化期に至った場合では,コンクリートの劣化部・不良部の範囲も大きいため,大規模な断面修復工法によって補修する必要がでてきます.また,腐食による鉄筋断面減少も著しいため,耐久性のみならず,耐荷性能も低下します.そのときは適切な補強工法を併用する必要があります.
このように,中性化に対する補修工法を選定するにあたっては,現時点での構造物の状況がどの劣化過程にあるかを十分に見極め,適切な工法を選択することが重要です.