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2024年12月6日 建設速報

2024年12月6日 建設速報 コンクリート構造物の話第5回 
コンクリート構造物の劣化は化学

2024年12月6日 建設速報 コンクリート構造物の話第5回 コンクリート構造物の劣化は化学 | 一般社団法人コンクリートメンテナンス協会
誤解を恐れずに思い切って述べさせていただきますが、土木技術者、または土木屋と呼ばれる人々には、「目に見えない現象」を敬遠する傾向があるように感じます。この「目に見えない現象」とは、イオンや電子といった化学の領域に関することが多いようです。もし私の誤解だったら、と考えると恐ろしくて仕方がありませんが、誤解を恐れずに先に進めます。
コンクリート構造物が劣化する主な要因として、塩害、中性化、アルカリシリカ反応(以下、ASRと記します)などがあります。まず、塩害について考えてみましょう。塩害はその名の通り、塩分がコンクリートに悪影響を及ぼす劣化現象です。海岸部のコンクリートは潮風や波しぶきから塩分が供給され、山間部では凍結防止剤として撒かれる塩化カルシウムなどが塩害を引き起こします。では、コンクリートに塩分が含まれると何が問題かといえば、それは「鉄筋腐食」という一言に尽きます。コンクリート中の鉄筋が腐食すれば、強度が低下し、構造物の耐久性に大きな影響を及ぼします。
次に、中性化です。中性化とは、大気中の二酸化炭素がコンクリートに侵入し、コンクリートのアルカリ性が低下する現象です。この中性化が進むと、またもや「鉄筋腐食」が問題となります。つまり、塩害も中性化も、最終的には鉄筋が腐食し、構造物に大きなダメージを与えるのです。塩害や中性化が進行すると、コンクリート表面にひび割れや浮きが見られることがありますが、この時点で内部の鉄筋が腐食していることは明らかです。
鉄筋腐食は電気化学的な現象で、腐食反応は電子のやり取りを伴います。塩害の場合は塩化物イオンの拡散が関わり、中性化の場合は水酸化カルシウムが炭酸カルシウムに変化する化学反応が進行します。これらの現象を理解するには、どうしても化学の知識が必要です。
もう一つの代表的な劣化要因として挙げられるのが、ASRです。これは、コンクリート中の反応性骨材がアルカリ成分と化学反応を起こし、アルカリシリカゲルを生成する現象です。このゲルが水分を吸収して膨張し、コンクリートにひび割れを生じさせるのです。ASRによる劣化は、塩害や中性化とは異なり、鉄筋腐食が原因ではありません。ASRによるひび割れは、亀甲状の特徴的な模様を呈し、白色のゲルが析出することもあります。この現象もまた、骨材中のシリカ成分とセメント由来のナトリウムやカリウムとの化学的な反応を伴うため、化学の知識が重要です。
このように、コンクリート構造物の劣化には化学的な要因が多く関わっているため、劣化現象を理解し、対策を講じるには、化学的なアプローチが不可欠です。しかし、私も土木技術者の一員ですので、最初はこうした化学的なアプローチというヤツに大いに抵抗感を抱いていました。そこで、この抵抗感を克服するために、一念発起して高校化学の参考書を購入し、一から勉強し直すことを決意しました。勉強の成果として私の中の抵抗感が敗北感へと化学変化し、結果的に何も努力しなかった場合よりも悪い状況となってしまったことが多少残念ではありますが、それでも化学の重要性を知るきっかけにはなりました。
結局、土木技術者としてコンクリート構造物の劣化を考える上で、化学的な視点を避けることはできません。目に見えないイオンや電子の世界を理解することが、目に見える構造物を守るために必要だからです。