2024年11月8日 建設速報
2024年11月8日 建設速報 コンクリート構造物の話第1回
フランスの構造物に学ぶ
今から約20年前、コンクリート構造物に関する国際会議「fibシンポジウム」に参加するため、フランスを訪れる機会を得ました。シンポジウムが開催されたのは南仏のアヴィニヨンです。「橋の~上で~踊ろよ♪踊ろよ♪」の歌で有名なアヴィニヨン橋がある街であり、中世にキリスト教の法王庁が置かれたことでも知られています。その当時に建てられた法王庁宮殿は世界遺産にも登録されています。アヴィニヨンの街に宿をとり、シンポジウム会場に向かうと、驚いたことにその法王庁宮殿がシンポジウムの会場でした。
法王庁宮殿の内装は一部が国際会議場として改装されていたものの、外観は14世紀の竣工当時のままであり、中世の世界に迷い込んだかのような趣がありました。日本を出発する際、「ヨーロッパは構造物の維持管理において先進的だ」という漠然とした印象を抱いていましたが、この法王庁宮殿を見て、「歴史的遺産を単に保存するのではなく、実際に使用しながら後世に伝える」という明確な意思があると感じました。これこそが、ヨーロッパにおける維持管理技術の発展の基盤であると考えさせられました。
シンポジウムのテクニカルツアーでは、当時建設中だったミヨー高架橋の施工現場を公式訪問しました。この橋は世界最長を誇る全長2.5kmの連続斜張橋で、主塔の最大高さは343mとこれも世界一です。運が良ければ雲を下に眺めながら走行することができるほどの高さです。建設事業はPFIによって行われ、事業主体はこのプロジェクトのために設立された企業体です。私が驚いたのは、その契約内容でした。詳細設計と建設工事に加え、竣工後の75年間の維持管理までが含まれていたのです。建設して引き渡して終わりではなく、計画段階から予め供用期間を通じた維持管理計画が盛り込まれており、その実行のために長期契約が結ばれていることに感銘を受けました。維持管理に対する考え方が社会に定着し、実際に機能している姿は、まさに維持管理先進国と呼ぶにふさわしいものでした。
これが20年前のヨーロッパの話です。一方、当時の我が国における維持管理の考え方は、まだ「コンクリート構造物はメンテナンスフリーである」という誤った認識が根強く残っていたように思います。しかし、この20年間で日本の維持管理に対する関心は急速に高まり、今では維持管理を軽視する風潮はほぼ皆無といえます。研究や技術開発も進展し、点検調査や補修補強の分野において新技術が次々と生まれています。あとは確実な維持管理の実行です。予算や人材の不足といったさまざまな課題が山積していますが、それを乗り越えて行動することが求められています。まさに今、日本が真の維持管理先進国となれるかどうかが試されているのではないでしょうか。