生コンセミナー後半では犬飼利嗣部会長、十河茂幸近未来コンクリート研究会代表、上東泰中日本高速道路技術・建設本部専門主幹<橋梁担当>、岩清水隆竹中工務店大阪本店技術部専門役建築技術グループ、桜井邦昭大林組技術本部技術研究所生産技術研究部主任研究員、吉兼亨元全国生コンクリート工業組合連合会技術委員長の6氏が「良いコンクリート構造物を施工するためのより良い生コンの製造」について討論した。主な発言は以下の通り(以下敬称略)。
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犬飼 まずは構造物の不具合に関して議論していただきたい。
十河 上東さんは発注者の立場として、設計にスペックインすれば様々な不具合について対策ができると思うが。
上東 高速道路構造物でもっとも多いのが、暑中コンクリート使用時の豆板と温度ひび割れなどの不具合。温度ひび割れに関しては設計の段階で温度応力解析を行い、場合によっては生コンの種類を変えている。多くの場合、低熱セメントを使うことで対応可能だ。とはいえ、施工者と生コンプラントの連携ができていないと、豆板などの不具合が起きやすい。ひとたび不具合が発生したら最悪の場合は取り壊しとなり、とてつもない費用と期間がかかる。やはり連携が一番重要だ。
岩清水 私は建築の現場を長くみてきたが、10年ほど前から、生コンの品質に起因するような不具合が減ってきたと感じている。生コン工場側でいろいろ努力された結果だろう。
こうしたことは当社だけかと思っていたが、先日、大阪兵庫地区の生コンクリート品質管理監査会議に出席した際、大阪兵庫生コンクリート工業組合では昨年度、生コンの品質に関するクレームうがゼロだったとの報告を聞いた。それだけ生コン工場側の意識が上がってきているのだろう。
十河 建築分野では構造物の部材が薄いことが多かったり、石灰石骨材の使用など乾燥収縮を考慮した材料の選定が広がったりしたことがあると思われる。
ところが土木分野では、温度ひび割れについて十分な対策が取られる環境にはなっていない。フライアッシュを使おうとしても実際の地方の現場では調達が難しかったり、生コン工場から「供給できない」と言われたり、コストが非常に高かったりと問題が多い。
実際に見てみると、温度ひび割れが結構、というかほとんどの構造物で発生している。
桜井 確かにたくさん発生している。実際のところ、地域の供給体制によっては事前の対策が現実的に不可能なので、ある程度ひび割れが入ることを許容し、誘発目地などで制御するという考え方も必要になってくる。
十河 設計でひび割れを許容しているならいいが、そうでなければひび割れが入ると必ず施工者側が負担することになる。
吉兼 よりよい構造物を造るという観点からは、やはり細骨材を含めた骨材の粒度分布のパターンが非常に重要。単位、水量、スランプやワーカビリティなど生コン全般に関与している問題だが、JIS A5308では触れられていない。
犬飼 不具合を防ぐために、生コン品質がどうあるべきかについて。
十河 JISをできるだけ順守しない方が、いい構造物ができるのではないか。JISとは、「守っていれば少なくとも変なものはできないよ」というものなのでベストにはなりにくい。発注者やコンサルが生コンに詳しければ、本当は色々なことができるはずだが、なぜかJISにこだわる人が多い。結局、JISの範疇でしか仕事ができなくなる。
できれば生コン側から主張してもらいたい。施工者が必ずしも生コンに詳しいとは限らないので、一番詳しい生コン側が、協議事項などを利用して、JISにとらわれない生コンの使用を提案してほしい。
岩清水 私も、JISのついたものよりも私自身が調合を決めたものの方がよい生コンだと信じて仕事をしてきた。建築分野がJISマークにこだわるのは建築基準法37条があるからだと思うが、国土交通省はJISマークを必ずしも求めていないという回答を出している。むしろ監理する側が管理しやすいように、JISマーク品を求めてしまう。
桜井 生コン自体の性能は非常に進化している。化学混和剤を使えば自由度の高い施工が可能になっている。現場の人手不足もあり、新しい技術を活用しやすい環境になるよう期待する。
上東 生コン製造者がJISにこだわっている限り、生コンの価格は適正なものにならないだろう。というのも、調査会表示価格はスペックの低いコンクリートの価格が反映されやすい。高速道路で高スペックなコンクリートを使おうとすると、表示価格と差が大きくなり苦労する。
生コン業者がより良いコンクリートを提案し、事業者がこれを採用できるようになれば、構造物を利用する国民にとっても利益が大きく、みんなにとっていい流れになる。水より安い生コンを出しているようでは問題だ。
犬飼 最後に、コンクリートをより良くする取り組みについて一言ずつ。
十河 ローカルルールを優先する仕組みのあるJIS作りをお願いしたい。
上東 事業者、施工者、製造者が三位一体となり、施工に適したワーカビリティを確保していくことが重要。
岩清水 生コン工場の経営者には、安い材料を買って利益を出すという発想ではなく、より品質が高く、購入者に喜ばれる生コンを出荷するという姿勢であってほしい。
桜井 時代が変わっていくなかで、特定のコンクリートが「技術的には使えるのに実際には使えない」という状況にあるのは残念だ。
吉兼 施工者がこれほど重視しているワーカビリティについて、生コン製造者もしかるべき関心を払うべきだ。 (おわり)