2020年1月1日中建日報の新年特集号に「近未来コンクリート研究会の状況報告」が掲載されました。十河代表、竹田主査(広島工業大学教授)、坂本主査(広島工業大学准教授)、江良主査(JCMA技術委員長、極東興和㈱補修課長)それぞれのコメントが掲載されました。
横見出し・近未来コンクリート研究会の活動状況
異業種間連携によるコンクリート構造物の長寿命化実現へ―。戦後、大量に建設されたコンクリート構造物の高齢化が深刻な社会問題となっている昨今、これらの適切な維持管理を支援するための近未来コンクリート研究会の活動が佳境に入っている。
同会は、元広島工業大学教授でコンクリート業界の重鎮である十河茂幸氏の呼びかけのもと、施工業者、コンサルタント、生コン業者やこれらに関連する業界団体等が集まり、2018年4月に設立。分業化した業種間連携の強化によって部分最適から全体最適への移行を図ることを目的に、初期ひび割れの抑制、構造物の長寿命化、生産性向上の3つのテーマ別に協議会を組織し、熱のこもった議論を重ねている。
そこで、本稿では今年3月で区切りを迎える予定の同会の趣旨を改めて振り返るとともに、各協議会別の検討状況について紹介する。
中建日報 新年特集号
近未来コンクリート研究会の活動状況
~異業種間連携による長寿命化実現~
会の目的・趣旨(1000字程度)
近未来コンクリート研究会の設立の趣旨は、社会資本整備におけるコンクリートの役割を確固たるものにするためである。つまり、本来のコンクリートの役割は、安全・安心・快適な社会に貢献することにある。しかし、コンクリートを活用することが十分にできていないのか、不具合が生じて初期欠陥となっていることが指摘されたり、早期に劣化して補修が必要となったり、いくつかの問題を抱えている。研究会では、これらの課題を解決するために、3つの協議会を開催している。
生産性向上の課題を解決する協議会(P協議会)では、建設業界の抱える技能者不足問題、工期の短縮のほか、合理的な建設を目指す目的で進められている。この協議会は、広島工業大学の坂本准教授を主査とし、産官学の参加者が現状の課題を整理し、生産性向上に資する技術を調査し、それらを実現するための方法について議論している。ロボット技術、IoT、AIなどの技術の活用など、様々なアイデアが有効に活用できることを目標に、提案できるようまとめている。
初期ひび割れを抑制するための協議会(C協議会)は、材料や配合に起因するひび割れをいかに抑制するかを検討している。建築物のように部材の厚さが小さいコンクリートでは乾燥収縮ひびわれが生じやすく、土木構造物のように部材が厚い場合は、セメントの水和熱に起因する温度ひび割れが生じやすい。この協議会では、半ば宿命的ともいえる材料や配合の影響で生じる初期ひび割れをいかにすれば抑制できるかをいろいろな立場の参加者がともに検討している。
コンクリート構造物の延命化に対する技術を検討する協議会(M協議会)は、老朽化したインフラや早期劣化をしたコンクリート構造物の延命化により、ライフサイクルコストを軽減することを目標としている。高度成長期に建設された多くの構造物が一斉に高齢化することが指摘され、延命化は喫緊の課題とされている。この協議会では、構造物の劣化を早期に発見して対応する「予防保全」を目指しながら、すでに劣化が進行しているコンクリート構造物の延命化の技術を整理し、社会に安全・安心・快適を供給する技術を整理している。
3つの協議会は本年3月で2年間の活動を一旦終えることとして、2020年度に予定されている総会において報告する予定である。
中建日報 新年特集号
近未来コンクリート研究会の活動状況
C協議会の活動
初期ひび割れの多くは、材料と配合に起因する場合が多い。コンクリートの施工後に生じるため、施工者にその責任が課せられることがほとんどであるが、設計段階から検討を始めないと制御できない。材料および配合の検討では、部材厚さが小さいと乾燥収縮の抑制のため、材料の特性である収縮の小さい材料を選択し、配合面では単位水量の低減が一つの目安となる。部材の厚さが大きいと、セメントの水和熱が部材内部に蓄積され、その放熱時の収縮で生じる温度ひび割れが生じやすい。これを抑制するには、単位セメント量を低減し、できれば低発熱性のセメントの使用が望ましいが、これらの対策のいずれもが設計段階で決定される場合が多い。初期ひび割れの抑制は、設計者(構造物の発注者)、コンクリートの製造者(レディーミクストコンクリート製造者)、建設会社の皆さんが共同で検討するべき課題である。この協議会はだれが何をすれば初期ひび割れを抑制できるかを提案する予定で進められている。具体的には,下記の内容について検討している。
①温度ひび割れがよく発生する構造物の事例と対策
?フライアッシュ高添加による温度ひび割れの抑制
③初期ひび割れ抑制のための適切な養生方法
④初期ひび割れを低減するために,“やってよいこと,やってはいけないこと"を明確にしたチェックリスト
中建日報 新年特集号
近未来コンクリート研究会の活動状況
~異業種間連携による長寿命化実現~
M協議会の活動
これまでに建設されたコンクリート構造物は総量として100億立米とされている。そのような大量の社会資本ストックの中で橋梁に着目すると、約73万橋存在するといわれる橋長2m以上の道路橋の多くが、既に老朽化や劣化による性能低下が懸念される状態に陥っているとの報告もある。高耐久性構造物として設計、施工されたコンクリート構造物も、環境条件や使用材料によってはさまざまな要因によって劣化が進行し、鉄筋腐食やコンクリートのひび割れ、構造物の脆弱化などが進行しつつある。かつてはメンテナンスフリーと謳われたコンクリート構造物であるが、今やそれら社会インフラの長寿命化、延命化の方策は喫緊の課題であるといわざるを得ない。コンクリート構造物の劣化機構は、塩害、ASR、中性化、凍害、化学的腐食など多岐にわたり、それらが複合的に作用する場合も少なくない。近年ではようやく近接目視や打音による構造物の点検が義務付けられたが、既に変状が表面化した段階では内部で鉄筋腐食はかなり進行している状態であると考えるべきであり、事後保全から予防保全への移行が強く求められている。しかし、これらの状況に対して社会インフラの適切な維持管理、延命化のための予算と人材が不足していることも指摘されており、未だ抜本的な解決の糸口は見出されてはいない。
そのような社会状況を踏まえ、この協議会では、コンクリート構造物の適切な延命化、長寿命化を図るための維持管理全般について、現状の把握と課題の抽出・整理を行うとともに、課題解決のための具体的な方策について、産官学の参加者が意見交換をしながらそれぞれの立場で何をなすべきかの議論を重ねている。
中建日報 新年特集号
近未来コンクリート研究会の活動状況
~異業種間連携による長寿命化実現~
P協議会の活動
生産性向上は、建設会社の努力だけでは進まない。将来の技能者不足は様々な分野で指摘されており、すでに外国人労働者に頼っている分野も多い。これらの現状を直視すると、生産性向上を実現する技術は、ロボットやIoT、AIなどの活用が必須となり、あらゆる分野に改革が必要と考えられる。この協議会では、現状すでに進められている無人化の建設機械やAI技術などの調査や、参加者によるマシンガイダンスやドローンを活用した現場管理の実例紹介などを通して、建設分野の生産性向上においてさらなる展開が叶うように議論を重ねている。また、先端技術だけでなく、様々な立場の参加者による建設現場の現状の把握と課題の整理を併せて行っており、もの作りから書類作りへの偏向や仕様に縛られすぎて杓子定規になっているという現状の問題点が浮き彫りになってきている。それらを受け、現状の現場に即座に適用できる課題解決のための提案や改革などを検討しており、それらは総会での報告を予定している。